2014年9月22日月曜日

【食べ歩きレポート】パリ セヴェイユ

漫画家のよしながふみが『愛がなくても喰ってゆけます』というグルメエッセイ漫画の中で「普通の食事に比べると甘い物の好きさ加減は7割くらいだ」と書いていたけれど、私にとっても甘いものというのはちょうどそんな感じだ。

あったら嬉しいけれど、なかったらなかったで構わない。

子どもの頃は毎日3時のおやつを欠かすことがなかったし、10代の頃にはケーキ好きが高じてケーキ屋でバイトをしていたこともあった私だけど…20歳を過ぎてお酒を嗜むようになってからというもの、菓子類の消費量はあきらかに激減した(唯一の例外はチョコレート)。
コース料理の最後にはなにかデザートが欲しいと思うけれど、それは甘いものを食べたい欲求というよりは、形式上食事の締めくくりとして欠くことのできない要素に対する欲求なのだろう。

小腹の空いた昼下がり、私がまず考えることは
「そうだ、おやつを食べよう」
ではなく
「そうだ、ちょっとしたおつまみで一杯やろう」
なのだ。





だがしかし、もしもそこが午後3時の自由が丘だったとしたら…?

なにか甘いものを口にせずにいられようか。
いや、いられまい。
なにしろそこはスイーツの聖地・自由が丘なのだから。
多少なりとも甘味を嗜む人間であれば、この街に来たらケーキを食べつつ優雅に茶をしばくことはもはや義務のようなものだ。






ある平日の午後3時過ぎ、私は自由が丘の街中の広い歩道に設えられたベンチでiPhoneと睨めっこしていた。

これからどこの店にケーキを食べに行くか…それが問題だ(甘いもの屋を何軒もはしごできるだけのキャパシティは私の別腹にはない)。
自由が丘界隈にはとにかくパティスリーの名店がひしめきあっているので散々迷ったが、今日はまだ一度もお店に伺ったことのない(伊勢丹のマ・パティスリーとサロン・デュ・ショコラに出店していた時にケーキを買ったことはある)パティスリー・パリ セヴェイユを訪れることにする。

駅から線路沿いに歩いて行くと、お目当ての店が出現。


Paris S'eveille=パリの目覚めという店名にふさわしく、この一角だけ正真正銘のパリのお菓子屋さん…!
まるでパリのサントノレ通りあたりの老舗パティスリーをそのまま切り取ってもってきたかのよう。
(上階のヘアサロンなんか目に入らないったら入らない…笑  でも、もし私がこのビルのオーナーだったなら、この二階部分に入れるテナントは花屋か女の子向けのかわいい雑貨屋に限定すると思う )
雰囲気たっぷりの外装に胸が高鳴らせながら、ドアを開ける。







※店内は一切撮影禁止とのことなので、ここからは私の拙い文章のみでお送りします。


お店の中に入った途端、お菓子やパンの焼ける甘くて香ばしい香りと、イートインスペースで談笑する女性たちの優雅な笑いさざめきに包まれる。
こういうお店に来ると「ああ、ここは自由が丘なのだ…」と、あらためて実感する。
入口正面のガラスのショーケースの中では、洗練された装いの色とりどりの美しいケーキたちが選び出されるのを待っている。
ケーキのラインナップは生ケーキだけで20種類程はあるだろうか。

ブーランジェリー(パン屋さん)も兼ねたこのお店の窓際の棚と、販売スペースとイートインスペースを区切るどっしりとた大きな木のカウンターの上には、こんがりと小麦色焼けた、見るからに美味しそうなパンと焼き菓子が所狭しと並ぶ。
このどっさり感が、いかにも外国のお菓子屋さんらしい。
バラエティ豊かにずらりと並べられたお店オリジナルのコンフィチュールの瓶と個包装の焼き菓子たち、編み籠一杯に入ったパン、ガラスのケーキ皿に盛られたパイやタルト、セロファンとラフィアで包装されごろごろと並べられた大きなバターケーキ、さらに駄目押しと言わんばかりにパリのお菓子屋さん情緒を演出するマカロンタワー群…

全種類制覇しようと思ったら、一体どれほどの時間がかかるのだろう。
そして、お菓子屋さんでこんな風にたくさんのお菓子に囲まれている時にいつも感じる、このえもいわれぬ幸福感は一体なんなのだろう(たとえ同量の野菜や肉や魚介に囲まれたとしても、おそらくこんな幸福感は感じられないだろう)。
もはや甘いものを口にしなくても、この眺めをお茶請けに美味しい午後のお茶がいただけそうな気がする。


このお店ではイートインの場合でもケーキは販売スペースで注文して、飲み物はあとからテーブルで注文するシステムらしい。
ショーケースの前で少し迷った末、ムッシュ・アルノー(560円)とタルト・オ・フリュイ・ルージュ(価格は失念)
を注文して、イートインスペースへ。

入店したのは平日の午後3時過ぎだったけれど、イートインスペースはほぼ満席。
運よく空いていた壁際の二人掛けのテーブルに案内される。
ケーキのお供にアッサムティー(700円)を注文。
ホットティーはポットでサービスしてくれるのが嬉しい。



タルト・オ・フリュイ・ルージュは、その名の通り赤いフルーツのタルト。
バターの香り豊かなザクっと噛み応えのあるタルト生地の中に詰まっているクリームはクレーム・ダマンド(アーモンドクリーム)かと思ったら、この香ばしい香りはピスタチオだろうか。
とても濃厚なクリームだけど、甘すぎず、ベリーの甘みを殺さない。
クリームの上には、ラズベリー、ブラックベリー、ブルーベリー、グリオットチェリー、赤スグリ…こぼれんばかりにどっさりと乗った宝石のようなベリーたち。
果実の一粒一粒がフレッシュで甘酸っぱくて美味しい。

タルト生地・クリーム・果物の味わいのバランスが絶妙で、素晴らしい一体感。
フルーツタルトって、ひとつひとつのパーツ(タルト生地・クリーム・ムース・フルーツetc)は美味しくても、正直単体で食べた方が美味しいのでは…というものも多いけれど、これはまさに三位一体のタルト!



ムッシュ・アルノーはミルクチョコレートとナッツとオレンジの味のケーキで、オーナーパティシエの金子シェフがかつて師事していたフランス人パティシエ アルノー・ラエール氏の名前を冠した、このお店のスペシャリテのひとつ。

ナッツの香り豊かなダックワーズの土台の上には、サクサクとした食感の香ばしい薄焼きクッキーと大きめに砕かれたナッツがごろごろ入ったプラリネ、その上にはミルキーな薄い板チョコレートが二枚重ねられ、さらにその上にはオレンジ風味の滑らかな口溶けのミルキーなチョコレートガナッシュがたっぷりと絞り出されていて、そこに波状に湾曲した薄いチョコレートと小さく切ったオレンジの果肉が飾られている。

口にした瞬間、弾ける爽やかなオレンジの香り!
一気に鼻腔を駆け上がるオレンジの香りをあとからふんわりと包み込むのは、まろやかでクリーミーなチョコレートの味わい。そして噛み締めれば噛み締めるほど広がっていく、ローストされたナッツの香ばしい風味。

さまざまな食感と味わいのコントラストが楽しむことができる、とても立体的な構成のケーキだ。
食べようとすると、どう頑張っても異なる素材を積み重ねられた層を破壊してバラバラに分解してしまうので、相当食べ辛いけれど……お皿の上をめちゃくちゃに散らかして周囲の顰蹙を買ってでも食べる価値のあるケーキ。

甘いミルクチョコレートがそこまで得意ではない私としては、かなり濃厚なミルクチョコレートとナッツの味わいに途中で少し飽きがきてしまったけれど、マイルドでナッティなチョコレートケーキがお好きな方には本当にたまらない逸品だと思う。






これで、もっとゆっくりと品物を選んで、広々とした場所でイートインすることができたら言うことなしなのだけど…
人気店で常に混んでいる上に、販売スペースがあまり広くないので、買うものを決めてさっさと出ないといけない雰囲気なのが(特に私のように決めるのに時間がかかる人間には)ちょっと辛い。
イートインスペースには二人掛けのテーブルが10席ほど。
私が席を立った時には、二組ほど席が空くのを待っているお客さんがいた。
テーブル同士の間隔が狭いので、席に着くのも一苦労。隣の席の会話は丸聞こえ。
正直、あまり落ち着いてお茶を楽しめるような雰囲気ではない。
おいしいケーキとお茶は、やっぱり腰を据えてゆっくりといただきたいものだ。

ぜひいつか、今ヘアサロンが入っている二階部分を買い取って、一階はショップのみにして二階をサロン・ド・テに…!(お店の外観もさらに完璧になるし、一石二鳥ではないだろうか)

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