2014年8月4日月曜日

【食べ歩きレポート】キッチンプラス(自由が丘)

時々無性においしい洋食を食べたくなる。 

フレンチでもイタリアンでもない、あくまでも「洋食」である。
明治大正期の日本人の西洋への憧れが詰まった、白いごはんによく合う西洋風日本料理…それが洋食。
もともとは文明開化の頃、来日する外国人向けに見よう見まねで作られた擬洋風建築ならぬ擬洋風料理がルーツらしい。

以前、横浜のとあるホテルのレストランで明治時代のレシピを再現したライスカレー(「カレーライス」ではない、あくまでも「ライスカレー」)を頂いたことがある。
蛙の肉が入っていたり、玉ねぎの代わりに長ねぎが使われていたり、あまりスパイス感はなく魚介の出汁の味わいが強かったり…具材から味つけからなにから現代のカレーとはかなり異なる、けれどそれはそれで不思議な魅力のある一皿になっていた。
擬洋風の建築同様、まだ「和と洋の融合」「和洋折衷」と言えるほど洗練されてはいなくて、粗削りで色々と甘いところやアンバランスなところもあるけれど、御一新の時代を生きた日本の職人たちのまだ見ぬ西洋に対する強い憧憬と、「こんなの作りたい!」というやや上滑り気味の激しい情熱が感じられる、愛おしいカレーだった。
現在私たちが食している洋食は、そんな擬洋風料理の流れを受け継ぐ料理なのだ。







閑話休題。



というわけで。
洋食食べたい病の発作が起きたある平日の晩、自由が丘の行列のできる洋食屋さん キッチンプラス(Kitchen+)を初訪問。

お店は自由が丘駅北口から7〜8分ほど歩いた自由通り沿いにある。



周囲の風景に溶け込むごくごく地味な店構えで、気をつけていないとうっかり見落としてしまいそう。
ディナータイムのお店の開店時間は18時。
私がお店の前に着いた17時45分の時点では、まだ並んでいる人はいない。
どうやら本日のディナータイムに一番乗りできそうだ。

開店を待つ間になにを注文するか決める。
ドアの前に立て掛けられたメニュー黒板には、ハンバーグにオムライスにメンチカツにビーフシチュー…魅惑の王道洋食ラインナップ。
私の目に留まったのは「ビーフカツレツ  デミグラスソース」の文字。



先日、ネイルサロンのテレビでドラマ『ランチの女王』の再放送を見ていて、劇中で竹内結子が美味しそうに頬張るビーフカツレツを無性に食べたくなったのを思い出した。
そうだ、今夜はビフカツにしよう。
店の中から聞こえてくるハンバーグのタネを勢いよく掌に叩きつけて空気を抜く小気味良い音に、少しだけ心が揺らぐけれど…ハンバーグはまた今度と自分に言い聞かせる。


いよいよ18時のオープンの時間を迎えると、お店のマダムが笑顔で迎えてくれた。
間口が狭く奥行きが深い鰻の寝床のような店内には、Iの字形のカウンターテーブルがひとつに椅子が8席あるきり。
ご夫婦二人で切り盛りする、小さな小さなお店だ。
開店までに並んでいたのは私を含め3組だったけれど、お店が開くやいなや常連さんとおぼしきお客さんたちがどんどん入ってきて、20分も経たないうちにたちまち満席になってしまった。
一人か二人で来ているお客さんばかりで、女性一人でもとても入りやすい雰囲気。

カウンターの中では黙々と調理をしているご主人の傍でマダムがてきぱきと給仕と接客をこなす。
私のあとに入ってきたお客さんのほとんどは常連さんらしく、マダムと世間話をしながらなにを注文するか決めている。
カウンターの中は狭いけれど整理整頓されていて清潔感がある。


カウンターの内側も外側も本当に必要最低限のものしか存在しない非常に簡素な空間ながら、気負わないおしゃれ感が漂っていて、いわゆる懐かしの「洋食屋」的な雰囲気とは一線を画している。
ベーシックなデザインの品々をセンス良く配置した店内にはシンプルな美しさがあって、老若男女問わず居心地よく過ごせる空間になっている。


今夜の私のオーダー内容は次の通り。

・瓶ビール(アサヒスーパードライ 小瓶)450円
・ニース風サラダ(ハーフ)370円
・かき玉子のミネストローネ340円
・ビーフカツレツ1300円
・ライス(S)150円


店内の黒板メニューには好物の田舎風お肉のパテなどもあり、思わず飛びついてしまいそうになったが…自分の胃の容量を考えて今夜は断念。
メニューによるとワインはグラス500円、デカンタ1900円、ボトル2700円とかなりリーズナブルに頂ける(ただし、種類は1種類のみの模様)ようだけど、カツにはビールの方が合うかと思い、この日はスーパードライの小瓶を注文。
ちなみにこのお店に置いてあるビールはアサヒスーパードライ、プレミアムモルツ、エビスの3銘柄で、いずれも小瓶オンリー。

注文するやいなや、すぐによく冷えたビールが出てくる。


日頃からビールはよく飲むし、瓶入りのコロナやバドワイザーなんかの海外のビールも割と飲むけれど、国産の瓶ビールを飲むのはとても久しぶりのような気がする(個人的に瓶入りのスーパードライや一番搾りは旅館や寿司屋で出てくる飲み物のイメージ)。
飲み慣れたアサヒスーパードライだけど、いつも飲んでいるものと味わいが違うように感じられるのは、やはり瓶入りだからだろうか。


注文してから5分ほどでニース風サラダが提供される。


このお店の人気メニューのひとつらしく、私以外のお客さんもほとんどが注文していた。
レタス、インゲン、ゆで卵、ツナ、アンチョビ、グリーンオリーブ、スライスした玉ねぎ、ゆでたジャガイモ、プチトマト…ドレッシングはフレンチドレッシング。
なにひとつとして過不足ない、正統派サラダ・ニーソワーズ。
プチトマトが湯むきしてあってドレッシングがよく滲みている。
こういうひと手間がとても嬉しい。
ハーフサイズでもかなり食べでがある。1人分なら十分な量。


サラダのあとに出されたかき玉子のミネストローネは、ざく切りのベーコンと野菜とかき玉子が入って具沢山。


トマトの味はしっかりとするけれど、酸味はとてもマイルド。
玉子を入れるアイディアは今度家でミネストローネを作る時に使わせて頂こう。
スープを飲んでいると、カウンターの内側奥の厨房から揚げ物を揚げるいい音と香ばしい匂いが漂ってきた。
本日のメインディッシュがそろそろやってくる頃だろうか…じわじわと期待が高まる。


そして、いよいよビーフカツレツの登場。


揚げたてほやほやで湯気が立っているカツは、食べやすく切り分けられている。
切り口は食欲をそそるピンク色。
(私としたことが、断面図を撮り忘れた…なんたる失態!)
少し焼き加減にムラがあるけれど、大方ミディアムレア程に火が通った牛肉を包み込む衣は、さくっさくの軽い口当たり。
デミグラスソースは酸味と苦味がほどよく効いていて味わい深い。
これはぜひ、このお店のハヤシライスやビーフシチューも食さなければ。
添えられたマスタードをソースと一緒にカツにつけて食べると、これがまたよく合う。
付け合わせの温野菜も彩りが綺麗でおいしい。
ああ、白いごはんが進む進む…






万人に受ける洋食の王道を行きながら、さりげない味付けや盛り付けのセンスの良さで一皿一皿を適度に(肩肘張らない程度に)垢抜けたものにしているあたり、このお店のバランス感覚は絶妙だと思う。
まるでお気に入りの普段使いの椅子のように、洗練されたシンプルさで飽きのこない料理が頂ける洋食屋さん…これは通ってしまいそう。

食べ終わって外に出ると、店の前には5〜6人ほどの入店待ちの列ができていた。


もう少しお店が広かったら(あまり待たずに食べられるし、もっとのんびり食事を楽しめるのになあ)…と思ってしまうけれど、きっと今ぐらいの大きさがご夫婦二人きりで切り盛りするにはちょうどいいのだろう。

お腹いっぱい食べて、ビールも飲んでお会計は2610円(税込)。
メイン料理+ライスのみの注文であれば、ディナータイムでも1500円前後におさまると思う。
ランチタイムにはメイン料理+スープ+ライス+コーヒー付きで1000円前後のお得なランチセットがあるらしいので、今度ぜひそちらも利用したい。

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